
野球選手の場合はドラフトで指名されたらプロに行ったほうがいい。
つまらない助言かもしれません。でも、いそがばまわれ。メジャーに行きたかったら、まず日本のプロ野球から。日本の場合、アマチュアとプロではまず指導力が違います。
とくにピッチャーの場合、アメリカは幾つかの球団をのぞいて、ほとんど指導はしていません。裁判沙汰が怖くて、指導したがらないのです。ノーラン・ライアンが全幅の信頼をおいたトム・ハウスにしても、何度も訴えられています。
それにマイナーリーグの劣悪な環境といったら・・・・。1日10時間以上、狭いバスに揺られて、安モーテルを泊まり歩く生活。膝や腰をこれで痛めたら自己責任。日本の労働基準法なんて当てはまりません。それにマイナーリーグはほとんどが4月から9月。給料もその間しかでませんから、副業をもたなくてはやっていけません。
大学に行きたかったら、吉井理人のように年食ってから、いけばいいい。
もともと吉井は勉強が好き。漫画はほとんど読まないそうで、たしかに雨の日ロッカールームに行くと、アインシュタインの評伝を読んでいました。
私がマイケル・ジョーダンの本を書いたとき、渡そうとしたら、
「ああ、それもう読んだで。空港の本屋で売ってたから。伝記ものは好きなんや」
とのこと。かなりの読書量なのです。
「勉強したかったけど、家が貧乏で大学は行かせてもらえそうになかった。だから、プロ野球選手になったんや」
とも言っていました。大学って勉強するために行くものです。就職あっせん口ではありません。
といっても、ギターもかなり好きです。バンドを組んで数か月ボールにさわらなかったら、感触を忘れてしまい、かなりあせったそうです。メジャーリーガーになってからも、遠征先ではよくライブハウスに足を運んでいました。
もちろんお金が人生のすべてではありません。吉井は巨人から13億円のオファーがあったにもかかわらず、年俸2400万円(これは大リーグが決めた最低年俸額。野茂のときは10万ドルだったので、これでも倍以上あがったのです)でメジャーと契約した男です。
この本を読んではじめて知ったのですが、あまりに野茂と間違えられるから、髭を生やすようになったそうです。笑えるやら、あきれるやら、
というのも、ある日のことです。カブスのリグレーフィールドで登板がないとき、私は吉井と楽しくダグアウトで雑談していました。
東洋人は皆、同じ顔をしているように見える。それから、すごく若く見られる。栗山英樹(現日ハム監督)なんか、レストランでパスポートを見せないと、ビールを出してもらえなかったという話。
たしかこんな会話でした。雑談なのでICレコーダーはまわしていません。
吉井「野茂は若く見られるから、いつもレストランでは身分証明をみせい、言われとるんよ。なのに、わしは言われへん。一緒にいてもわしは見せんでいい、と言われる」

吉井「わし、そんなに老けてみえるんやろか?」

吉井「そうか、髭かあ」
そのとき、シカゴでは登板がありませんでした。次の登板のとき私は行かず、記者席のテレビで見ました。そして、おもわずコーヒーをふきそうになりました。先発した吉井の顔からきれいさっぱり髭がなくなっていたのです。(吉井の話はまたそのうち)