4月から新連載「ほのぼのブラックカルチャー通信」(仮題)を準備中。
筆者のるるゆみこさんは在米ブロガーなので、コロナ肺炎でアメリカがどんな騒ぎになっているか、今回は連載に先立って寄稿していただきました。
ついに! われわれが暮らすワシントン州にもコロナウィルスがやってきた。
そしてその週末、私が働いているグロッサリーストアのトイレットペーパー、ペーパータオル、サニタイザー、水などが「あっ」という間になくなった。
私が担当するアジアンセクションでは、米の棚が空っぽ。
なんで???という感じ。
アジア諸国からの輸入品は滞るかもしれないけれど、米はカリフォルニア産。家にこもるといっても、米がなくなる前に野菜がなくなると思うけどなぁ。
まぁ、そんなこんなで、週末のグロッサリーストアは危険なほど人口密度が高くなり、平日は大量の荷物が届き、妙に忙しい毎日を送っている。
しかーし、そんなことは私にとったらどうでもいい。 私の試練はウィルス恐怖症のダンナが待つ、我が家へ帰ってから始まる。すでにチリダニなのに、さらにコロナまでプラス・・・いい加減にして欲しい。
「コロナよりもインフルエンザで亡くなってる人の方が多いらしいよー。亡くなるのもお年寄や病気の人みたいやで」
「確率の問題じゃない!これは生死に関る問題や!わずかでもリスクがあるなら、おれらは徹底的にウィルスから体を守らなあかんっ!!!」
と力強く叫ぶ彼。
これまで彼はギャングのシューティングに巻き込まれないよう、警官のハラスメントにあわないよう、常に神経を張り巡らせて危険を回避し、生き延びてきたのだ。
ここでコロナごときで死んでたまるか!という気持ちがあるに違いない。
彼は朝から晩までコロナのニュースに釘付けになり、新しい情報を得るたびに電話がかかってくる。
「また死者が出たぞっ!手で顏を触るなっ!・・・人が近付いてきたら逃げろっ!・・・咳してる人がおったら塩でうがいしろっ!・・・おまえが仕事してる場所は最悪やっ!くっそーーーー!!!」
「狭~いオフィスよりもマシやん。換気が大事って言うてたでー」
なんて言おうものなら、
「誰がそんなこと言うた!おれは誰の言葉も信用せんっ!」
悪い人たちがウヨウヨする場所で育った彼は、嫁の言葉はもちろん、誰のことも信用しない。特に、黒人を虐げ続けるこの国のことはまったく信用していないので、
「選挙の時期にコロナウィルスやで。これで投票に行く人が減るで。怪しいなぁ・・・」
と、実はコロナウィルスの報道に関しては何かウラがあると疑っている。
お店に来るお客さんの中にも、違う見方をしている人はいる。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の陰謀説を考えれば、無きにしも非ずという感じ。
さて、報道を100%信じているわけではないけれど、コロナウィルスが存在する限り、ダンナは回避のために全力を尽くす。
仕事が終わると、ダンナへ電話をする。
「なんか欲しいもんある~?」
「コーヒー買ってきて・・・清算はセルフチェックへ行くんやで!ウィルスにまみれたキャッシャーの手で、おれらの食料を触らせるな!清算するときも手袋はめて、終わったらその手袋は捨てるんや!」
と次々と指令が出る。言われたことをそこそこ守り、帰宅して家の扉を開けると、厳しい目をしたダンナがアルコールのスプレーを手に立っている。室内消毒中だ。
「仕事中顏触った?・・・客から離れとった?咳してる客おった?・・・従業員で休んでる奴おる?・・・ちゃんとうがいした?何回した?・・・セルフチェック行った?・・・」
細々とした質問が投げかけられる。
客商売なので客から逃げられないこともあるけれど、家庭平和を保つため、余計なことは言わないでおく。第一関門を突破した私は、荷物をおき、手洗いを済ませ、キッチンへ戻って食品を取り出し始める。背後に異様な気配を感じ、振り返ると、そこには仁王立ちのダンナが・・・。
「なんやねんっ!」
「お前はあの危険な場所に8時間おって、その洋服を着たままおれらの食料に触れるんか!」
翌日、帰宅後の質問に答え、手を洗い、着替えてから台所へ入り、食品を取り出していると、またまた背後に異様な気配。
「なんなんっ!服は着替えたやんっ!」
「手を洗っても、ウィルスがいっぱい付いたショッピングバッグを触ったら意味ないやん!そのウィルスだらけの手で、おまえはおれらの食料を触ってるんや!」
完璧主義のダンナはわずかなミステイクも許さない。私もそれなりに気を付けているつもりだけれど、彼にとったら無神経レベル。しかし私はダンナではない。ウィルスだらけと思われる手で野菜たちを冷蔵庫へ投入。そーっとダンナを見ると、般若のような顔で私を睨んでいた。
「言うてることは正しいと思うでー。でも、どっちが正しいとかじゃなくて、考え方とか方法とか、それぞれ違うやん!」
「はっ?!これには正しいか間違いかしかないっ!間違えたら死ぬんやぞっ!!!」
「・・・」
要するに、我々の問題は、私はコロナで死なないと思っているけれど、ダンナはコロナで死ぬかもしれないと思っていること。この差は大きい。といっても、これはダンナに限ったことではないような気もする。
1970年代のブラックコメディ「Sanford and Son(サンフォード・アンド・サン)」というテレビドラマがある。
ある日、定期健診を受けた息子のレイモンドの元に、再検査の手紙が届く。ただの再検査だけれど、これが最期の別れだと信じる親子。病院へ行くレイモンドが、
「達者でな・・・」
と別れの握手を求めて手を差し出すと、父親のフレッドはものすごーくイヤそうな顔をする。
そして、レイモンドが去った瞬間、フレッドは部屋中にスプレーをまいて消毒をする。
これはコメディだけれど、おそらくフレッドの行動に、
「あー、わかるわかる」
とうなずく黒人は意外と多いのかも。
ダンナの息子が風邪ではなかったけれど、感染性の病気になったことがあった。ダンナは仕事へ行かなければならないママから看病を頼まれたけれど、結局、息子のところへは行かなかった。ひどいなぁ・・・と思ったけれど、彼は行きたくても行けなかったのだと思う。そして一番悲しんでいたのも彼に違いない。普通に生きていても常に命の危険にさらされてきた彼には、それ以上のリスクを背負う余裕がもうないんだろうなぁ。そしてこれまでに大切な家族や友人を失ってきたダンナにとって、死はとても現実的で身近なもの。もういっぱいいっぱいなのだ。
私だって死ぬかもしれないと思ったら、もっとピリピリして、必死で予防するだろうなぁ。彼は怒っているんじゃなくて、怖くて、そして悲しいのだ・・・と優しい気持ちで帰宅すると、ダンナが険しい顏で待っていた。
「顔触った?・・・うがいした?・・・今日は何人の顔に近付いた?」
「は???最後の質問がわからんけど・・・」
「何人と顔を近付けて話したかって聞いてるんじゃっ!!!」
「・・・ゼロじゃーーーーーーーっ!!!!!!!!」
ダンナよ、愛しているけど、しばらくどこかに埋まっていておくれ・・・。
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るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚。
ついに! われわれが暮らすワシントン州にもコロナウィルスがやってきた。
そしてその週末、私が働いているグロッサリーストアのトイレットペーパー、ペーパータオル、サニタイザー、水などが「あっ」という間になくなった。
私が担当するアジアンセクションでは、米の棚が空っぽ。
なんで???という感じ。
アジア諸国からの輸入品は滞るかもしれないけれど、米はカリフォルニア産。家にこもるといっても、米がなくなる前に野菜がなくなると思うけどなぁ。
まぁ、そんなこんなで、週末のグロッサリーストアは危険なほど人口密度が高くなり、平日は大量の荷物が届き、妙に忙しい毎日を送っている。
しかーし、そんなことは私にとったらどうでもいい。
「コロナよりもインフルエンザで亡くなってる人の方が多いらしいよー。亡くなるのもお年寄や病気の人みたいやで」
と力強く叫ぶ彼。
これまで彼はギャングのシューティングに巻き込まれないよう、警官のハラスメントにあわないよう、常に神経を張り巡らせて危険を回避し、生き延びてきたのだ。
ここでコロナごときで死んでたまるか!という気持ちがあるに違いない。
彼は朝から晩までコロナのニュースに釘付けになり、新しい情報を得るたびに電話がかかってくる。
「また死者が出たぞっ!手で顏を触るなっ!・・・人が近付いてきたら逃げろっ!・・・咳してる人がおったら塩でうがいしろっ!・・・おまえが仕事してる場所は最悪やっ!くっそーーーー!!!」
「狭~いオフィスよりもマシやん。換気が大事って言うてたでー」
なんて言おうものなら、
「誰がそんなこと言うた!おれは誰の言葉も信用せんっ!」
悪い人たちがウヨウヨする場所で育った彼は、嫁の言葉はもちろん、誰のことも信用しない。特に、黒人を虐げ続けるこの国のことはまったく信用していないので、
「選挙の時期にコロナウィルスやで。これで投票に行く人が減るで。怪しいなぁ・・・」
と、実はコロナウィルスの報道に関しては何かウラがあると疑っている。
お店に来るお客さんの中にも、違う見方をしている人はいる。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の陰謀説を考えれば、無きにしも非ずという感じ。
さて、報道を100%信じているわけではないけれど、コロナウィルスが存在する限り、ダンナは回避のために全力を尽くす。
「なんか欲しいもんある~?」
「コーヒー買ってきて・・・清算はセルフチェックへ行くんやで!ウィルスにまみれたキャッシャーの手で、おれらの食料を触らせるな!清算するときも手袋はめて、終わったらその手袋は捨てるんや!」
と次々と指令が出る。言われたことをそこそこ守り、帰宅して家の扉を開けると、厳しい目をしたダンナがアルコールのスプレーを手に立っている。室内消毒中だ。
「仕事中顏触った?・・・客から離れとった?咳してる客おった?・・・従業員で休んでる奴おる?・・・ちゃんとうがいした?何回した?・・・セルフチェック行った?・・・」
細々とした質問が投げかけられる。
客商売なので客から逃げられないこともあるけれど、家庭平和を保つため、余計なことは言わないでおく。第一関門を突破した私は、荷物をおき、手洗いを済ませ、キッチンへ戻って食品を取り出し始める。背後に異様な気配を感じ、振り返ると、そこには仁王立ちのダンナが・・・。
「なんやねんっ!」
「お前はあの危険な場所に8時間おって、その洋服を着たままおれらの食料に触れるんか!」
翌日、帰宅後の質問に答え、手を洗い、着替えてから台所へ入り、食品を取り出していると、またまた背後に異様な気配。
「なんなんっ!服は着替えたやんっ!」
「手を洗っても、ウィルスがいっぱい付いたショッピングバッグを触ったら意味ないやん!そのウィルスだらけの手で、おまえはおれらの食料を触ってるんや!」
完璧主義のダンナはわずかなミステイクも許さない。私もそれなりに気を付けているつもりだけれど、彼にとったら無神経レベル。しかし私はダンナではない。ウィルスだらけと思われる手で野菜たちを冷蔵庫へ投入。そーっとダンナを見ると、般若のような顔で私を睨んでいた。
「言うてることは正しいと思うでー。でも、どっちが正しいとかじゃなくて、考え方とか方法とか、それぞれ違うやん!」
「はっ?!これには正しいか間違いかしかないっ!間違えたら死ぬんやぞっ!!!」
「・・・」
要するに、我々の問題は、私はコロナで死なないと思っているけれど、ダンナはコロナで死ぬかもしれないと思っていること。この差は大きい。といっても、これはダンナに限ったことではないような気もする。
1970年代のブラックコメディ「Sanford and Son(サンフォード・アンド・サン)」というテレビドラマがある。
ある日、定期健診を受けた息子のレイモンドの元に、再検査の手紙が届く。ただの再検査だけれど、これが最期の別れだと信じる親子。病院へ行くレイモンドが、
「達者でな・・・」
と別れの握手を求めて手を差し出すと、父親のフレッドはものすごーくイヤそうな顔をする。
そして、レイモンドが去った瞬間、フレッドは部屋中にスプレーをまいて消毒をする。
これはコメディだけれど、おそらくフレッドの行動に、
「あー、わかるわかる」
とうなずく黒人は意外と多いのかも。
ダンナの息子が風邪ではなかったけれど、感染性の病気になったことがあった。ダンナは仕事へ行かなければならないママから看病を頼まれたけれど、結局、息子のところへは行かなかった。ひどいなぁ・・・と思ったけれど、彼は行きたくても行けなかったのだと思う。そして一番悲しんでいたのも彼に違いない。普通に生きていても常に命の危険にさらされてきた彼には、それ以上のリスクを背負う余裕がもうないんだろうなぁ。そしてこれまでに大切な家族や友人を失ってきたダンナにとって、死はとても現実的で身近なもの。もういっぱいいっぱいなのだ。
私だって死ぬかもしれないと思ったら、もっとピリピリして、必死で予防するだろうなぁ。彼は怒っているんじゃなくて、怖くて、そして悲しいのだ・・・と優しい気持ちで帰宅すると、ダンナが険しい顏で待っていた。
「顔触った?・・・うがいした?・・・今日は何人の顔に近付いた?」
「は???最後の質問がわからんけど・・・」
「何人と顔を近付けて話したかって聞いてるんじゃっ!!!」
「・・・ゼロじゃーーーーーーーっ!!!!!!!!」
ダンナよ、愛しているけど、しばらくどこかに埋まっていておくれ・・・。
るる・ゆみこ★神戸生まれ。大学卒業後、管理栄養士で数年間働いた後、フリーターをしながらライヴへ行きまくる。2004年、音楽が聞ける街に住みたいという理由だけでシカゴへ移住。夜な夜なブルーズクラブに通う日々から一転、一目惚れした黒人男性とともに、まったく興味のない、大自然あふれるシアトルへ引っ越し、そして結婚。