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 2007年4月23日、カルフォルニアで3台の車が衝突する事故が起きた。
1200x0 赤信号になったにもかかわらず、交差点で強引に左折しようとしたトヨタカムリに、前から直進してきた日産クーペ、後ろからインフィニティと衝突した。
 3台のうちカムリがいちばん損傷が激しかった。

 他の3人は比較的ケガが軽かったので、自力で車のドアをあけて出てきた。
 ところが、カムリの助手席はほぼつぶれていて、ドアも原型をとどめていなかった。呼びかけても声がでない。
 駆けつけた救急隊が助け出したとき、すでに脈も呼吸も止まっていた。

 デビッド・ハルバースタム、73歳。ほんの数マイル離れたところで、アメフト選手の取材を終えた帰りだった。

 運転していたのは、CA大学のジャーナリスト大学院生で、5か月前にも事故を起こしたばかりだ。懲役5日間、200時間の社会奉仕、ハルバースタムの妻と娘に賠償金が支払われる判決がでた。

 アメリカを代表する偉大なジャーナリストがあっけなく、逝ってしまった。
  
 
幻想の超大国―アメリカの世紀の終わりに
デイビッド ハルバースタム
講談社
1993-02T





ジョーダン
デイヴィッド・ハルバースタム
集英社
1999-06-25




 
 ニューヨークで生まれたハルバースタムは、7歳の日の出来事を鮮明に覚えていた。
 日本の真珠湾攻撃だ。
 同世代のアメリカ人なら、この真珠湾のときとケネディ大統領が暗殺された状況のとき、自分が何をしていたか、誰もが語ることができた。
 1941年のあの日、アメリカはまだ眠れる大国で、強大さに気がついていなかった。世界のリーダーという地位には程遠い場所にいて、孤立主義だった。
 すでに農業大国ではあったが、ヘンリー・フォードの台頭で、車産業が台頭してきた。
 幸運なことに、アメリカ国内には大量の石油の備蓄があった。
 デトロイトの自動車工場はすぐに切り替え、T型フォードの代わりにジープや戦車や軍用機を大量に生産することができた。
 イギリスのチャーチル首相は、このときすでにアメリカが「デモクラシーの巨大な工場」になることを予想していた。
 真珠湾によって巨人が目を覚ましたのだった。

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   ハルバースタムと「シカゴ・ディフェンダー」誌は、エミット・ティル事件からの縁なので、長く深い。
 彼はキング牧師にも同行取材し、貴重な記録を残した。
 ベトナム戦争にも従軍、大統領と戦争について書かせたら彼の右にでるものはいない。   
 スポーツが大好きだったので著作も多数、その代表作は「勝負の分かれ目」や「ジョーダン」を描いたものだ。
  
 スポーツライターの梅田香子は彼の生前、何度もNBAのシカゴ・ブルズ取材で一緒になり、著者インタビューもした。  
 当時の記事を読むと、ハルバースタムは印象的な言葉はいくつも残している。

「ジョーダンの美しさはアメリカにおける男性の美の定義を変えてしまった。それは人種の壁どころか、国境をこえた、インターナショナルなものだ」

「われわれの世代はゲーリー・クーバーやグレゴリー・ベックやロバート・レッドフォードがハンサムだという社会通念にとらわれ、それが美意識になってしまっていた」

「ジョーダンはテッド・ウィリアムズともジョー・ディマジオとも違う。新世代のスポーツ選手で、全世界を相手にしてプレーする。白人だけが相手ではないのだ」

「国家というものは短所から長所を生むことがある。アメリカは常に人種問題を抱えてきた。黒人たちが白人文化の一翼をにない、白人もまた黒人文化の一部となりつつある。たとえば、アメリカのポピュラー音楽はエルビス・プレスリーの登場以来、ずっと黒人音楽の影響下に置かれつづけている。
 エルビスはもともと南部の黒人音楽だったロックンロールをはじめてメジャーにした。
 パパ・ブッシュはクリントンが大統領候補になったとき、たびたび彼のことを”エルビス”と呼んで侮蔑した。ブッシュはクラシックやフランク・シナトラに慣れ親しんでいたからね。有権者の大半がもはやロックンロール世代だということに気がついていなかった」

  かつてJFKと険悪だった時期もあった。ベトナムでは
同世代のジャーナリスト、ピーター・アネットをかばって大ゲンカをしたと聞くハルバースタムだった。
 ところが、バスケットボールの記者席では別人のようだ。気さくで、にこやか。よく笑う。
 ペンをにぎりしめ、夢中になってバスケットボールを目で追う様子は、まるで10代か20代の学生みたいに熱かった。

 今後は版元と著作権エージェンシーの許可を得て、機会あるごとにハルバースタムの著作を紹介していく予定だ。<文責・マリア・ロレイン>

↓るるゆみこの好評連載3連弾、黒人とスポーツや音楽をテーマにしています。

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