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 意外かもしれない。あるいはがっかりされるかもしれない。
 米国の老後は心豊かに、恵まれた暮らしをしている人たちが多い。それが現状だ。高かった医療保険も65歳をこえると公的なメディケアに加入することができる。

 このリテア・クランプ
という100歳になった女性は、いわゆる「おひとりさま」で生きてきた。
 年金暮らしで充分にやっていける。
 彼女のような年金がもらえない人には生活保護がある。実はシングルマザーへの福祉もかなりぶ厚い。(日本は先進国の中で、生活保護への支援額が低すぎる)
zu-1 クランプ夫人が家をもつオースティンという町は、高級住宅地だったオークパークの隣、治安が悪い地域のひとつとされてきた。
 市内から近く鉄道が通っているから車なくても生活ができる。
 面積は広いが、人口も多い。
 「シカゴ トリビューン」紙の調査だと、オースティン地区はシカゴ市内 77 の自治体の中で 暴力犯罪の多さではワースト11 位、強盗は ワースト25 位、その他の軽犯罪では ワースト5 位。
 彼女はそこに根をおろし、自治体や教会のスタッフとしてボランティアをつづけてきた。


 

 隣人たちから、「マザー・クランプ」と呼ばれているレテア・クランプ夫人が、2022 年 9 月 22 日木曜日に 100 歳になった。
 結婚歴はなく、バイオロジカルな子供はいない。
 けれども、マザー・クランプの存在は、彼女が暮らすコミュニティにとっては、代理母のようなものだ。
 これまで何か困難な状況に陥ったとき、彼女は家族や友人に家を開放したものだ。
 48 年以上このオースティンに住み、奉仕してきた。
 リーフ・キャンディ・カンパニーという会社で29 年間勤務した後、退職して年金暮らし。
 敬虔なキリスト教徒で、神を愛し、教会でボランティア活動してきた。
 
 もともとはミシシッピ州クラークスデール出身。彼女は18 歳でメンフィスに移り、35 歳でシカゴに移り、それ以来ここに住んでいる。

「マザー・クランプに心からの敬意と感謝を示したい」とリーダーズ・ネットワーク(キング牧師の理念に基づく信仰と自治をリードする団体)の主任であるデビッド・チェリーは言った。
「私たちが暮らす地域はたびたび暴力で支配された。子供を含む若者を失ったことを嘆き悲しんでいる。私たちのコミュニティで 100 周年を迎えた女性を称え、祝う、めったにない楽しい機会だ。神がマザー・クランプを祝福し続けてくださいますように」




「常に困難に立ち向かうミセス・クランプのような人生の物語は語り継がれ、祝福されるべきだ。彼女は大恐慌、第二次世界大戦、リンチ法の時代、そして私たちの歴史の”バスの後ろのほうに立って乗らなくてはいけない”時代を生きぬいた。」

 グレーター セント ジョン教会のアイラ ・エイクリー牧師は次のように述べた。

「100歳以上の人にとって、初の黒人大統領、初の女性副大統領の選挙、そしてたまたま黒人でもある初の女性副大統領の選挙、そして初の黒人女性の米国最高裁判所への任命を目の当たりにすることは、アメリカの希望そのものに違いない。」

 ほぼ毎週、教会では音楽や祈りのイベントがある。人々は一緒に歌ったり、踊ったりして楽しむ。
 日曜の礼拝では銀色のお盆がまわり、皆がそれぞれチップをおき、終わると別室で食事タイムになる。立食スタイルで好きな食べものを皿によそい、おしゃべりを楽しむ。たくさん作るので、テイクアウトする人もいる。

 マザー・クランプも料理スタッフの一員として手伝い、少し持ち帰って自宅での食事にしてしまうそうだ。
 足が弱って大量に買い物に行くことはできなくなった。が、ボランティア・スタッフが週何回か手伝いにきてくれる。
 ずっと彼女が誰かに奉仕してきたように、今は誰からが彼女を助けてくれる仕組みだ。
 人間は一人では生きていけない。 
 
 ここ数年で米国ではあちこちで「高齢者は足すか会って生きていこう」という呼びかけで、BHVなど(ビーコンヒル・ビレッジ)などさまざまな社会運動やNPOが発足。大企業も出資してくれている。

 むずかしく考えすぎることはない。できることをできる時間に少しずつ、誰もがやっていく。米国では小学校からそれを教え込まれ、ボランティアをしたことがない人間がほとんどいない。大学も入学試験がないので、スポーツ同様、ボランティア活動の実績が入学のときに左右される。
  
 グレーター セント ジョン教会ではほぼ毎週、音楽やさまざまなイベントが催されている。もちろんミセス・クランプもスタッフの一人として今日も手伝っている。<了>




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